価格： 1,470円　レビュー評価：4.0 レビュー数：1
読み始めると、その簡潔で繊細な語り口に引き込まれて、一気に読み進んでいった。だが、十一歳の少年スムヒのみずみずしい内面や、同級生への淡い恋心や生活の光景を読んでいくうちに、読者という場所から遠ざかって、スムヒと同年代の｢少年｣として｢その夏｣にしばしの間だけ立ち止まっていたい気持ちにもなった。爽やかで深い余韻を残す読後感とともに、次のような作者による読者への言葉を思い出す――｢わたしたちは、だれもがスムヒです｣。この作品は、実は、既に少年ではなくなった読者にこそ向けて書かれているのだ。けれども、確かに｢ノスタルジック｣ではあるが、その語り口にジメジメしたところがないのは、やはり既に少年期を｢